「nextクリエイターズ」(日本テレビ・7月2日木曜夜10時54分~)で紹介された「トレンディーな人工衛星」こと、リーマンサット・プロジェクトの超小型人工衛星『RSP-01』。

宇宙空間で「自撮り」をするミッションを達成するために各開発担当がこだわってきたこと、みえてきたものはなんだったのか。「自撮り」機能にフォーカスしながら番組で紹介された開発リーダーたちに、各担当の開発でのこだわりや想いについて、お話をうかがいました。

<Interview & Text: Kaitos(カイトス)>


【RSP-01 熱・構造系リーダー 細野 泰弘さん】

--熱・構造系のこだわりやポイントは何でしょうか?

細野 搭載する「自撮り」をするための仕組みの小型・最適化です。ご存じの通り、リーマンサットが開発しているのは10センチメートル四方の小さい箱型の衛星です。この中にRSP-01に搭載するすべての機能を集約しなければなりません。

RSP-01に載せているのは大まかに
・自撮りのための機能
・自撮り時の衛星のブレを抑えるための機能 (姿勢制御)
・自撮りした写真を処理する機能 (C&DH)
・自撮り写真を地上に送信する機能 (通信)
・衛星を動かすための電源機能 (電源)
の5つの機能です。各担当開発グループ(系)がそれぞれ開発してつくりあげていくのですが、普通に作ると一つ一つの機能を持ったパーツが大きくなってしまい、とても10センチメートルの小さい箱の中には納まりません。

そこで、熱・構造系は、3D CADというPC上で立体的に構造をシミュレーションできるソフトを使って、パーツに使われている小さな部品一つ一つに至るまで徹底的に再現し、パズルのように各々のパーツを組み合わせて、10センチメートル四方にすべての機能が収まるように設計を行いました。
実際に部品の間の隙間が1ミリ以下まで追い込んでいる個所も多数あります。

--1ミリ以下ですか?! そこまで精緻な世界とは思いませんでした。

細野 開発中、「ここは0.〇mm隙間があるから余裕だね。」という会話が自然と出て、現物もぴったりとその通りにはまるくらい頑張って設計していました。(笑)
また、そのように精緻な設計を行ってもどうしても収まらない所も多くありました。例えば、基板上に実装する部品が、他の個所に当たってしまいどうしても筐体を組み立てられない個所がありました。その場合には、影響を受ける他系と相談しながらより小さな部品に変更をしてきました。

--余裕だね・・・ですか。(笑) 構造系は全体を設計するからこそ、各機能を開発する主要メンバーが集まって何度も確認、検証、変更をしていく必要があるのですね…。特に「自撮り」のための機能で大変だったことはありましたか?

細野 そもそも自撮りの機構が大きくて、どうしても本体に納まらなかったということですね。(笑)

--本体に納まらないと肝心の「地球をバックに『自撮り』」ができなくなりますよね? でもカメラは、RSP-01のメインコンピューターのひとつである超小型コンピューター、ラズベリーパイ(通称ラズパイ)用の市販カメラを使っていますよね。独自に小型化したり、機構の改造するとなると難しくなかったですか?

細野 開発当初は、普通のラズパイカメラを使うことを想定していたのですが、これだと画角が狭く、アームを遠くまで伸ばさないと自撮りできないことが機構の大きくなる原因でした。そこで、広角撮影タイプ(魚眼レンズ)を使うことで、「自撮り棒(アーム)」の伸びる長さを短くして機構を小型化できました。

--しっかりした構造を組むために設計だけでなく、細野さんが『接着剤』も探究されていた記憶があります。接着剤にも宇宙に向く種類や違う目的があるんだと初めて知りました。

細野 打ち上げの振動に耐えられるように、配線やコネクターを固定する。
打ち上げの振動でネジが緩まないようにする。
太陽光パネルを筐体に取り付ける。
これらの目的で、それぞれ別の接着剤を3種類選定しました。一言に接着剤といっても、色々な種類がありますのでそれぞれの目的に合った物を選びました。といっても、通販サイト等で普通に買える接着剤です。

--振動試験はハラハラものだったのではないでしょうか? 自撮りアーム本体にもたくさんネジがついて、宇宙空間で自撮りするたびに筐体の中も暴露されるわけですし。

細野 それはもうドキドキでした。(笑) クリアした時には思わずガッツポーズしちゃいましたね。(笑)

--細野さんは化学メーカーのエンジニアということで本業でも3D CADを駆使して設計しているんですか?

細野 いいえ、私は本業は素材系の人間なのでまったく馴染みはありませんでした。3D CADもリーマンサットで初めて触りました。私が作ったのは本当に初めの簡単な箱だけで、それから先はほとんど本業でCADを使っている他の構造系メンバーが作成してくれました。私は専ら彼らが3D CAD上で作ってくれたものを見て、それを実物に落としこみ、問題が生じた部分をフィードバックしていくという作業をしていました。

--熱・構造系のメンバーとはどんな風に一緒に作業していたのでしょうか?

細野 熱・構造系の主要メンバーは遠隔参加(大阪や長野)の人が多くて、ほとんどSkypeでのテレコンやLINE等のチャットを使ってやり取りをしてました。今思うと時代を先取りしていましたね。(笑)

--RSP-01 はメンバーひとりひとりの技術や知恵がぎゅっと詰まってできているんですよね。

細野 そうですね、本当に平日の夜10時からテレコンが始まって深夜1時まで終わらなかったり。1か月くらい毎週土日、町工場に朝から晩まで缶詰になって筐体を組み立てたり。RSP-01には多くのメンバーの技術や知恵のみならず汗と涙と工数が惜しみなく詰め込まれています!!(笑) 社会人になってこんな大学の部活みたいな事がまたできるとは思っていませんでした。(笑)

今は、早く皆で打ち上げを見送って一杯やるのが待ち遠しいです!!


【RSP-01 C&DH系リーダー 安達 一哲 さん】

--安達さんがリーダーをされている開発チームはどういうことをしているのですか?

安達 私はC&DH(Command & Data Handling)系と呼ばれる衛星の頭脳部分を担当するチームに所属しています。C&DH系は、衛星自体の制御や、状態の監視を行うサブシステムです。分かりやすい役割としては、衛星に対する地上からの命令の実行や、衛星の状態を地上に伝えるといったことを行います。

例えば、「自撮り」を行うために必要な主な操作としては、
(1)自撮りアームを展開する。
(2)自撮り撮影を行う。
(3)自撮りアームを収納する。
(4)撮影した画像を地上に送信する。
といったものが考えられますが、これらを地上から命令として送り、衛星が実行し、その結果が返ってくることで、地上で待つ我々は「自撮り」というミッションを達成することが出来ます。

--安達さんは普段どういうお仕事をされていて、それがどう「自撮り」につながったのでしょうか。

安達 私は普段、宇宙機の運用やデータ解析・評価を行う業務に従事しています。
RSP-01は約90分で地球を一周しますが、地上と通信できるのは日本上空に来た時だけで、その時間も最大で10分程度と非常に限られています。本業での経験は、そのような厳しい制約の中で、RSP-01が宇宙での「自撮り」を成功させるためにどのような命令が必要か、その命令をどのように処理すればよいか、どのような応答をいつ返せばよいか、ということを考える上で非常に役立ちました。

--人工衛星の頭脳部分を開発すると聞くと、C&DH系のメンバーは、安達さんのように本業が宇宙系の人が多くなりそうなイメージがありますが。

安達 リーマンサット、そしてRSP-01チームの良い点の一つが、本業や学生時代の経験、趣味などで多種多様なバックグラウンドを持つ人達と出会えることです。C&DH系も普段の仕事でソフト開発を行っている人や、ハード開発を行っている人、更には技術系以外の仕事をしている人もメンバーにいます。
そのため、様々な分野の経験を活かし、チーム一丸となって素晴らしい「頭脳」を完成させることができたと思っています。

--最初はバラバラの知識や経験がどんどんひとつに集約されてくるところはすごいですね。RSP-01が国際宇宙ステーションから宇宙に放出された瞬間から働き始める「頭脳」。宇宙空間にいる01に向かってコマンドを打って返ってくるのが待ち遠しいです。お話をきかせていただき、ありがとうございました。


そのまた未来へ、RSP-01プロジェクト、まだまだ新たなチャレンジを続けています!

ただいま運用メンバーも募集しています。参加についてはこちらから。

次回は、電源系リーダー今井さんにもお話をうかがいます。おたのしみに!


【この記事を書いたメンバー】

鬼頭佐保子
広報部 技術広報課長、技術部RSP-01プロジェクトC&DH系、rsp.横浜支部長。
趣味は宇宙開発、宇宙教育、星空案内、美味礼賛。7つの海を渡るのが夢。


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