こんにちは、RSP-03 通信系のなすです。
開発も佳境に入って久しい超小型衛星RSP-03開発チームの通信系(T系)の活動の一部を紹介します!

 

超小型衛星 RSP-03に搭載する無線機の性能を調べたい

わたしたちが作っている超小型人工衛星は、地上局と電波で通信する「無線機」になります。
無線機が出す電波は、事前に総務省に申請したスペック内に収まっている必要があります。

そして、きちんと申請通りのスペックになっていること
(きちんと正しい周波数で送信されているか、他の機器に影響を与えないかなど)
を測定により証明し、総務省から免許を受ける必要があるのです。

参考:総務省 人工衛星等のアマチュア局(アマチュア衛星)について
https://www.tele.soumu.go.jp/j/others/amateur/confirmation/amasat/

というわけで、開発チームとしては、一通りの開発ができた段階で、
作ったものがちゃんと要件を満たせているのかを調べたくなります。

開発した無線機…7種類の電波型式で電波を送信する

実際に衛星に搭載される通信基板。下が主系(Main)、上が従系(Sub)

1枚の基板に2つの無線機が搭載されています。
衛星運用中に主系無線機が故障しても、従系無線機に切り替えて衛星の運用を継続できます。

今回は、まったく同じ構成の2枚の基板を持ち込み、その両方に対して測定を行いました。
1枚は実際に衛星に搭載され、もう1枚は衛星搭載品に万が一の事態が発生した際のバックアップとして使われます。

RSP-03は下記7種類の型式で電波を送信します。電波型式と送信する情報の対応は下記のようになっています。

電波の型式 送信出力、ビットレート(デジタルのみ) 送信する情報
OQPSK 0.9W、24kbps ミッションデータ
4FSK 0.9W、24kbps ミッションデータ
GMSK 0.4W、9.6kbps HKデータ(※1)、ミッションデータ(※2)
AFSK 0.4W、1.2kbps HKデータ、ミッションデータ
アナログオーディオ(音声) 0.4W Digi-talker
アナログオーディオ(SSTV) 0.4W SSTV
モールス符号 0.1W HKデータ

※1 HKデータ:House Keepingデータ。衛星の温度、電圧、電流などの状態を表すデータ。テレメトリともいう
※2 ミッションデータ:03のメインミッションである、作曲データ。衛星が作曲したデータを地上に向けて送信する

測定する内容

前述の7つの電波型式に対して、それぞれ下記の測定を行う必要があります。

1.帯域外領域に余計な電波が発射されていないか
2 .送信(空中線)電力の測定
3 .周波数偏差の測定
↑ここまでを無変調で測定

↓ここから変調ありで測定
4 .占有周波数帯域幅(OBW)の測定
5 .スプリアス領域に余計な電波が発射されていないか(2~4倍の高次高調波など)

無線機から送信する電波のパラメータ設定(周波数や出力、型式、変調の有無など)はPCからのコマンド操作で行いました。

JARDさんの測定器室開放サービスを利用しました

リーマンサットで所有している(またはメンバーが個人で所有している)測定器でもある程度のスペックは見ることができますが、十分ではありません。
また、きちんと測定データを取るためには定期校正されている測定器を使う必要があります。

そこで、今回は、東京都豊島区巣鴨にあるJARD(一般財団法人 日本アマチュア無線振興協会)の測定器室の開放サービスを利用して、審査に必要な項目の測定を行ってきました(※3)。

※3 JARDの測定器解放サービスについては公式Webサイト(https://www.jard.or.jp/index.html)を参照ください。
なお、本記事の内容はあくまで今回の測定のものであり、JARDさんの提供するサービスは今後変更になる可能性があること、あらかじめご承知おきください。
https://www.jard.or.jp/gitekininsho/measuring_instrument_service/

ビルの7,8階がJARDさん。測定器室利用サービス以外に、アマチュア無線の免許取得のための講習なども行われている

測定器室には複数の測定器がラックに組んでありました。
操作は専用システムにより、備え付けのPCからほぼ自動で行われ、エクセルファイルに結果が保存されていきます。

ラックに測定器がみっちり。すべての機器がGPIBでPCに接続されており、自動制御されている。年に1回校正が行われているそう

測定のようす

JARDの測定担当の方(奥)とリーマンサット開発メンバー(手前)が協力して作業を進めた
通信基板本体をメンバーお手製の治具に接続して測定
送信コマンドはノートPCから操作

まずは、無変調で測定を始めます。

1.帯域外領域に余計な電波が発射されていないか

キャリア近傍の帯域外領域を計測し、不要な発射がないかを確認しました。
※ 占有周波数帯幅の許容値をBとすると、中心周波数に対して±(0.5~2)×Bが帯域外領域

同時に、以降の測定のためにスペアナのレンジ(最大値)も決定します。これはJARDさんの測定システムで自動で行われます。

測定のコマンド操作は、測定器のパネル操作は一切なく、すべてPCから行われていた
測定結果から表示レンジも自動で設定される。便利!

2 .送信(空中線)電力

所定の出力に対して少し余裕をもって低めに設定するようにしました。

CWの出力計測のようす。所定の出力は100mW(0.1W)なので、少し高かった。無線機のソフトウェア上で設定を変更して出力を下げることに

3 .周波数偏差

中心周波数からどの程度ずれているかを計測します。

すべての計測で130Hz以下のずれに収まっていた。優秀!

ここからは変調ありで測定を行います。
デジタル信号の場合は疑似乱数パターン(PN9)、アナログ変調の場合は擬似音声を使用しました。

4 .占有周波数帯幅(OBW)

変調をかけて電波を送信し、占有周波数帯幅(99%のエ ネルギーが含まれる周波数の幅)を計測しました。

5 .スプリアス領域の不要輻射(2~4倍の高次高調波など)

1で調べた帯域外領域よりもさらに広い範囲を見て、2~4次の高調波が出ていない(-13dBm以下)ことを確認しました。

すべての測定を終え…

じつは、このJARDさんでの測定は12月と2月の2回行いました。
1回目の測定でいくつかの問題が発覚しましたが、その後にハードウェア・ソフトウェアの改修を行い、2回目は無事にすべての項目で規定以内となりました!

よかった!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!(大声)

JARDの担当者様が諸々のサポートをしてくれた

さいごに

自前で測定器を持っていたとしても、これだけの測定を、JARDさんの計測システムなしで行うのは大変そうです。
こんなサービスを提供してくれているJARDさんに改めて感謝です。
ありがとうございました!

巣鴨駅前の牛兵衛にて 予備免許と一緒に!

RSP-03はこれから、衛星の振動試験など、打ち上げに向けて重要な検査を控えています。
開発メンバーは休日も惜しんで作業をしています!
ぜひみなさま、応援をよろしくお願いいたします。

 

参考:使った測定器たち

スペクトラム・アナライザ E4440A(アジレント 3Hz~26.5GHz)
周波数カウンタ MF2414B(アンリツ 600M~40GHz)
モジュレーション・アナライザ 8901B(HP 150k~1.3GHz)
電力計(高周波パワーメータ) E4418B(アジレント)
擬似音声発生器 KSG3600(菊水)
電圧・電流計…ディジタル・マルチメータ 45(FLUKE)

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【この記事を書いたメンバー】

技術部 RSP-03 通信系 / 地上局系 なす
リーマンサット歴6ヶ月になりました。宴とか祭りとかが好きです。


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