宇宙が好きな僕には、もう一つ好きなものがある。それは鳥を観察すること。小さい頃によくお父さんに連れられて、川や山に野鳥を観に行った。シルエットや飛び方や鳴き声だけで鳥の名前を当てられるお父さんはすごいなあと思いながら、たくさん教わったのをよく覚えている。だから今でも珍しい鳥のさえずりを聞いたりすると、きょろきょろして落ち着かなかったり、その姿を見つけたときには、怖がらせないように細心の注意を払いながらなんとか近づけないか必死になってしまう。

 そんな僕が、この前リーマンサットの仲間数人と星空観測合宿をしてきた。幸い夜は晴れ間があって、天の川までは観えなかったけれどプレアデス星団の星が肉眼で5つくらいは観える星空の下に寝っ転がれた。久しぶりにゆっくり星を観れて幸せを感じていたが、この小旅行の間、鳥に注意して観たのもなんだか久しぶりで楽しかった。しかしそこで面白かったのはただ鳥を観察したことではなくて、リーマンサットの仲間と行ったからだろうか、鳥を観ながら人工衛星のことを想像して楽しんでいる自分がいた。自分が好きな宇宙と鳥を好きなように繋げながら、好き勝手に妄想する一人の青年がちょっとだけ語ります。誰得・・・?

 

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 バンガローのテラスからはちょっとした林が眺められて、そこを抜けると大きな川が流れる岩場になっていた。岩場に訪れると、セキレイがいた。頬まで黒いからあれはセグロセキレイだ。ちょっと歩いたら尾を縦に振る、隣の岩にちょっと飛んでまた尾を縦に振る。動作がかなり可愛い。彼らは独特な飛び方をする。何回か羽ばたくと羽を閉じて、一瞬落ちて、そしてまた何回か羽ばたいてを繰り返して、上下しながら波を描くように飛ぶ。ヒヨドリもよく似た飛び方をする。ここでふと、上下しながら飛ぶのはISS(国際宇宙ステーション)と似ているなと思った。ISSは地上から約400kmのところを周回しているが、実は少しずつ地球に落ちるので定期的にスラスターを吹いて上昇する。宇宙にいるといえど、地球の上を周回できる程度には重力に引っ張られているのだからやはり落ちるのだ。そんな400km上空にあるサッカーコートくらい大きな衛星の上下運動を、セグロセキレイの飛ぶ姿に想像していた。

 

セグロセキレイ

 

 朝起きるとツツピッツツピーという鳴き声がいくつも聞こえた。バンガローの前の林に小鳥の群れが来ていた。シジュウカラだ。声も大きさも可愛らしいが、胸の模様は黒いネクタイのようでなんだか凛々しい。よく観ているとコゲラも群れに混ざっていた。コゲラはキツツキの一種で、木の幹に垂直にとまる姿からひと目で分かる。群れで声を出し合いながら木々を移っていって、このキャンプ場のバンガローに順番に朝を知らせているみたいだった。群れを成すのは、近年出てきた衛星群を想像させる。いくつかの組織が計画を発表しているが、中でもSpaceXは何千機もの人工衛星群で通信サービスを展開するという。自然界ではとっくに実現している渡り鳥の編隊やムクドリの大群のような規律のある動きを、人も宇宙で実現できるだろうか。

 

シジュウカラ

 

 

 川辺を散歩していたら、カルガモではないカモがいた。目から伸びる深緑のラインがとても綺麗だ。あれはコガモだ。全国的に分布していて、都内の池にもいたりするが案外みんな見落としがちかもしれない。僕も久しぶりにちゃんと観た気がした。ここまで鳥の動きをなんとなく衛星に例えて想像してきたが、川の流れを無視してスイスイとどこまでも泳いでいくカモは、地球から離れて宇宙を旅する探査機のようかもしれない。カモが池を自在に泳ぐように、リーマンサットでもいつか宇宙を飛び回る宇宙機を作ってみたいなあと思った。

 

コガモ

 

 川や岩場をしばらく見下ろしていて、ふと見上げると、大きな鳥が滑空していた。綺麗な三角形の尾に、翼の先の方にある白い模様。日本で一番見ることが多いタカのトビだ。トンビともよく呼ばれているだろうか。地上を見下ろしながら川沿いを進む僕らにずっとついてくる。トビは静止衛星みたいだなと思った。多くの衛星より高いところから地球の動きに合わせて飛んでいる姿は、食物連鎖のトップにある猛禽類が似合っていそうだ。あ、でもさっきカモを探査機にしてしまったんだっけ。静止軌道も超えて宇宙空間を大航海する探査機の方が上じゃないだろうか。いやいやそんな細かい整合性は今どうでもいい。僕は好きに想像をし続ける。一度も羽ばたくことなくどんどん空の高いところに飛んでいって、あんなふうに宇宙機も、風に乗るように宇宙を飛べたらとまた仰ぐように見る。いや、あるじゃないか。バサバサと抗うことなくどんな宇宙機よりも速く宇宙を飛び周れる人工衛星、イカロスが。JAXAが開発して、はやぶさの裏で成功しまくった小型ソーラー電力実証機『IKAROS』が。イカロスは対角線の長さが20mもある正方形の超薄い膜ソーラーセイルを拡げて、太陽から光圧を受けて加速する人工衛星だ。光圧の力は非常に微弱だが、空気抵抗などが無い宇宙空間ではこの小さな力が蓄積されていき、最終的にはとんでもない速さになる。実証実験では約5ヶ月で秒速100mまで加速していた。

 

トビ

 

 人工衛星はこれからどう進化していくだろうか。鳥たちは地球の大気と風を上手く使って移動できるように、素晴らしい進化をした。「翼がほしい」は思わず夢を叶えたいときに言ってしまうようなセリフで、人類にとっても鳥の進化というのはとても画期的に観測されている。しかし鳥の翼も、何も無い宇宙空間では使えない。いや、確かに翼は使えないかもしれないが、宇宙に何も無いなんてことはない。宇宙空間には確かに空気は無いが、真空がある。場として電場と磁場があり、星々からの電磁波が飛び交っている。つい4年前には、遠くの宇宙から伝わってくる重力波も観測された。空間や物体の縦波を音として観測する僕らだが、宇宙空間もいろんな波動があって、きっと賑やかなんだろう。これからもっと敏感に観測できるようになって、例えば重力波を目で観ているような感じになったら。サーフィンするかのように、重力波にのって宇宙空間を移動する人工衛星が出来るかもしれない。重力波は光速で移動するから、実現したら間違いなく最速の宇宙機だ。最速で飛ぶ鳥ハヤブサも比較にならない。こんな妄想をしてなんだか一人で興奮してきた。誰かこの僕を救えるだろうか。

 

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 好き勝手な想像を楽しみながら人類の進化を望んでいたがふと、数日前に軍用ソナーの影響で大量のクジラが浜辺に打ち上げられているニュースを思い出した。人類の観測を拡げるために自分の命を懸けてみたいなと常日頃思っているけれど、たくさんのものが観えるようになった時に、鳥たちにとってこの星がうるさくなっていないといいなと、空を見上げながら思った。トビはまだ僕を見下ろしながら、ピーヒョロロロロと鳴いていた。

 


【著者プロフィール】

岩渕 陽太
好きな天体は太陽。自分も太陽になれるんじゃないかと思ってる。
上ばかり見てて歩くのがかなり下手。


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