宇宙で作曲する人工衛星「ハモるん」こと超小型人工衛星RSP-03。
「趣味は宇宙開発」リーマンサットにおいて、ハモるんをどのように創り上げてきたか――衛星運用前に、育ての親たちにじっくり語っていただきます。
<Interview & Text: ホソダトモエ 広報部&RSP-03外部公開系>
それでは、RSP-03通信系開発者インタビュー、はじめます。
向かって左:Katsuiさん 右:やまさきさん
プロフィール・参加のきっかけと近況
--こんにちは!それではお二人のプロフィールからお話しください。
Katsui:本業は電気屋さんですが、無線は初挑戦。趣味だから新しいことに挑戦してみたいと思って通信系に入りました。
やまさき:RSP-03での担当は通信系・地上局システムのソフトウェア開発です。リーマンサットには2017年の夏から参加していて超小型人工衛星の零号機RSP-00、壱号機RSP-01、そしてハモるんことRSP-03の開発に携わらせてもらいました!仕事では航空宇宙業界ではないところでシステムの開発をしていて、普段とは異なる開発環境や接点のない人達とお話しできて、毎回楽しく参加させてもらっています!
2018年、RSP-00開発修羅場中のやまさきさん(写真右下)
--衛星本体の開発終わって半年、何をしてましたか?
Katsui:2024年に衛星本体の開発が終わってから今年の頭までは、技術講演会*などがあって忙しくしていました。その後は地上局とか運用の準備とかですかね。ただ衛星の開発ほど詰め詰めではなかったので、2年ぶりくらいにリーマンサット活動のない休日を過ごしたりしていました。
あなたにとってRSP-03(ハモるん)とは?
--お二人はRSP-03プロジェクト立ち上げから参加していましたね。あなたにとってRSP-03(ハモるん)とはなんですか?
Katsui:初めて趣味で作った衛星です!壱号機RSP-01が打ち上がった頃にリーマンサットに入ったので。
やまさき:チームとしてのRSP-03は、メンバー達が共通の目標に向かって切磋琢磨し合うコミュニティの場だと思います。
通信系の役割
--RSP-03開発で担当している「通信系」とはどんな役割なのでしょうか?
Katsui:通信系は、宇宙を飛んでいる衛星と地上の間の通信を確保するのがミッションです。そのための衛星に搭載する無線機を作ったり、電波を使うのに必要な手続きを担当している系です。
やまさき:わたしは通信系と地上局系に所属しています。衛星と地上間の無線通信の環境を用意しています。
--今回のミッション(宇宙で作曲)と通信系の関わりは?
Katsui:衛星で作曲された音楽を地上に届けるのが通信系の役割です。
技術的な挑戦
--通信系で使ったプログラム言語は?
Katsui:Rustです。
--Rustを選んだ理由は?
Katsui:Rustは割と新しいプログラム言語で、最近はWindowsやLinuxなどのOSのプログラミングにも使われるようになってきました。通信系の開発を始めたころはまだまだメジャーではなく、面白そうだから使おうぜ!という趣味全開の採用でした。
--RSP-01から03で進化したところは?
Katsui:「誤り訂正の導入」です。前号機RSP-01の時は、受信したデータに結構データ化けが発生してエラーになったりしていました。その場合「もう一回送って」と衛星へコマンドを打つので、画像などの大きめのデータを受信する時には結構時間がかかりました。
--確かにRSP-01では、何日もかけてダウンリンクしていた記憶があります。
Katsui:これを改善するために無線通信の中に「誤り訂正」を導入しています。地上での試験ではうまくいっているので、実際の宇宙との通信でもデータ化けなしでやりとりできてくれればと思います。
--ほかにはどういったところが進化していますか?
やまさき:「誤り訂正」の導入による通信品質の向上に加え、4値FSKやO-QPSKといった高速通信の導入、ミッションデータの送信方法のチューニングによる実効速度の向上が行えています。使用する周波数帯を1つに絞ることで、01の時よりも更に無線機の小型化に成功しました。
--「ここがすごい!RSP-03」を一言で言うと?
Katsui:まず、趣味で作って、打ち上げまで漕ぎ着けたことがスゴイ!
--それは確かにそう。趣味なのに!
Katsui:技術的には、3軸磁気トルカと3軸リアクションホイール、無線機2台を1Uという10cm角に納めるという結構な無茶を成立させている点が凄いと思っています。
--やまさきさんはいかがですか?
やまさき:単純なモノづくりだけではなく、作曲衛星ということもあってイベント企画など、幅広い層に興味を持ってもらえる衛星だなと思います。
--一番自信のあるところはどこですか?
Katsui:無線機ですね。ここは試験も結構やったので自信があります。
開発の裏側~衛星ぶっちゃけ話
--今だから言えることはなんですか?
Katsui:よく途中で力尽きずにここまでこれたなと。
やまさき:引き渡し直前に、自分が担当のソフトウェアで不具合が発覚し、緊急で呼び出しがかかり大急ぎで修正したことです。不具合の内容はちょっとしたことでしたが、影響度が非常に大きいものでした。。見つかって良かった・・・
--具体的にどんな不具合だったんでしょうか?
やまさき:アマチュア無線で無線を送信するときには、自身に割り当てられたコールサインと宛先のコールサインを名乗る必要があります。衛星から送信するときは、送信元が衛星のコールサイン、宛先が地上局のコールサインを指定するのですが、僕の設定ミスで逆のコールサインが指定されていました。通信内容にばかり目を向けていたため、設定値の確認を見落としていたんですね。。運用中に変更することを想定しておらず、軌道上で変更する手段も無いため、気づかないままでいれば無線送信の停止を求められていたかもしれません。
--開発に関わる中で、一番心躍ったのはどんな時でしたか?
やまさき:地上局のシステムと衛星の通信部分を担っていることもあって、開発時に地上局システムからのコマンドが衛星局に届き、各系を横断して処理された上で衛星から戻ってきた通信を地上局システムで受け取ることができた時が一番嬉しかったです!
--超小型人工衛星ならではの難しさや工夫した点は何ですか?
やまさき:小型化にあたり、従来は専用のICなどハードウェアで対応していた処理を、マイコン上のソフトウェアで実現したことが難しくもあり、達成感のあった点です。
--もう一度衛星を作るとしたら、どこを改善しますか?
Katsui:電源ですかね。実は私は電源系も掛け持ちしていましたが、そっちに十分時間を割けていませんでした。なのでBestな設計とは言いきれず、結構改善したいところがいっぱいあります。
--なんでKatsuiさんはそんないろいろ知っててすごいんですか?
Katsui:基本的に趣味ですね。残念ながら、学校で学んだことや会社で培ったものはそんなに多く無いのです。だから、好きこそものの上手なれということだと思います。
RSP-03開発開始直後のKatsuiさん
RSP-03(ハモるん)宇宙空間への放出への想い
--RSP-03(ハモるん)が宇宙に行った時、一番初めに、あなたの開発した個所は何を行いますか?
Katsui:ハモるんが宇宙に飛び出すと、30分後にアンテナを伸ばして「自分はここにいるよ〜」というビーコンを送信し始めます。
----30分後!
Katsui:地上でビーコンをキャッチできれば、ハモるんが目を覚まして動きはじめたということが確認できます。このビーコンを送信するのが私たち通信系の開発した無線機の最初の役目です。
--衛星放出を前にして、今心配していることはなんですか?
Katsui:電池です。昨年(2024年)12月に引き渡す前に充電していますが、1年近く経ってしまっているのでもし電池が切れてアンテナが開かなかったら・・・と心配は尽きません。
やまさき:放出後、元気にビーコンが聞こえてくるか心配です。
--それは本当に心配ですが、宇宙に行って電池交換することもできないですし、祈るしかないですよね。元気にビーコンを聞かせてくれますように!ところで衛星の放出の日はどこで過ごしますか?
Katsui:放出の日は、1st AOSでビーコンをキャッチするために地上局でスタンバイしている予定です。
やまさき:最初の通信を地上局で受信したいです。
--「大成功」と思える瞬間は?
Katsui:自分の中では、1st AOS(ファーストパスのアオス、人工衛星が特定の軌道に到達する際に、その到達を最初に確認すること)の時にモールスが聞こえたなら大成功です。そこまで行けば他も動くやろ、の精神です。
やまさき:すべての通信モードが機能すれば嬉しいです。
--ハモるんがミッションを終えたとき、迎えに行ってあげたい派ですか?大気圏突入で燃え尽きるところに美学を感じる派ですか?
Katsui:燃え尽きる派ですかね。そこまでを衛星の寿命として設計しているので。
開発を振り返って
--開発を終えて、心残りはありますか?
やまさき:特にありません。
Katsui:心残りはないですね。こうするともっと良くなるとかこんなころとも出来そうとかはありますが、RSP-03としてはやれることをやり切っているので、心残りというよりは次への改善点みたいな認識です。
--打ち上げ延期についてどう思いましたか?
Katsui:地上局の準備が間に合っていなかったので、いろいろやる余裕が出来てありがたいという気持ちと、電池の残量大丈夫か?という不安の両方がありました。
--Katsuiさん、やまさきさんは地上局系も担当していますもんね。
やまさき:またか、、と思う反面、地上局で解決しなければいけないことが残っていたため、準備期間がもらえてホッとした部分もあります。
未来とメッセージ
--RSP-03(ハモるん)をどう楽しんでほしいですか?
やまさき:SatNOGS*やRSP-03情報サイト「HAMORUN!」*など、オンラインでも受信データの確認ができるので、少しでも身近に感じてもらえたら嬉しいです。
--ハモるんにはどれくらい生きてほしいですか?
Katsui:半年、できれば予定していたミッションを全部やり切るまで動いていて欲しいですね。
やまさき:年度内は大気圏へ再突入せずに動いていてほしいです。
--リーマンサットで活動する理由は?
Katsui:やっぱり楽しいからですね。同じ趣味を持った仲間たちとワイワイやれる場面って、社会に出るとなかなか難しいので。
やまさき:たくさんの人達と出会い、一緒に活動するのが楽しいからです!
--超小型人工衛星RSP-03を通じて、ハモるんを応援してくれている皆さんに感じて欲しいことはなんですか?
Katsui:宇宙ベンチャーが盛り上がり、毎日世界のどこかでロケットが打ち上げられるようになった今でも、国や教育機関でもなく企業の事業用でもない衛星は珍しいものです。でも不可能ではない、やろうと思えば意外と趣味でできるのね、ということで可能性の広がりを感じていただけたなら嬉しいですね。
--最後に読者へメッセージを!
Katsui:興味を持って追いかけてくれているひとや、そこから2回のクラファンで打ち上げ費用に協力までしていただいた方もいると思います。そうした皆さんの応援のおかげでハモるんは宇宙の彼方に飛び出していくことができるので、是非、自分たちが宇宙へ送ったんだぞと周りの人に自慢していただければと思います。
やまさき:ミッション達成に向けて運用していきますので、これからも応援よろしくお願いします!
フライトモデル(実際に宇宙へ放出されるモデル(Flight Model:FM))を製作中の通信系の皆さん
Katsuiさん、やまさきさん、ありがとうございました!次回はミッション系へのインタビューの予定です。お楽しみに!
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#7 地上と衛星をつなぐ命綱…通信系開発(1) ~超小型人工衛星RSP-03開発ウラ話14連発【RSP-03技術講演会】
#8 地上と衛星をつなぐ命綱…通信系開発(2) ~超小型人工衛星RSP-03開発ウラ話14連発【RSP-03技術講演会】
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宇宙開発したい皆さん、一緒に何か企てませんか?リーマンサットが気になったかたはこちらまでどうぞ。
開発メンバー、広報として一緒に盛り上げていくメンバーも随時募集中です。
【この記事を書いたメンバー】
広報部 オウンドメディア課 &RSP-03外部公開系 トモエ モエ
リーマンサットCBO(C:最高 B:ビール O:責任者)
好物はビールと焼肉