宇宙で作曲する人工衛星「ハモるん」こと超小型人工衛星RSP-03。
「趣味は宇宙開発」リーマンサットにおいて、ハモるんをどのように創り上げてきたか――衛星運用前に、育ての親たちにじっくり語っていただきます。
<Interview:梨太郎&ホソダトモエ Text: ホソダトモエ 広報部&RSP-03外部公開系>
それでは、RSP-03C&DH系系開発者インタビュー、はじめます。
プロフィール・参加のきっかけと近況
--こんにちは!それではプロフィールからお話しください。
吉田:吉田です。衛星のソフトウェア全体設計・開発を担当しました。スキーと鍵盤楽器が好きなソフトウェアエンジニア、東京在住です。
--衛星本体の開発終わって半年、何をしてましたか?
吉田:私生活を充実させていました!
あなたにとってRSP-03(ハモるん)とは?
--RSP-03プロジェクト立ち上げから参加していましたね。あなたにとってRSP-03(ハモるん)とはなんですか?
吉田:自分の技術者人生を象徴するひとつの集大成になった思います。リーマンサットや仕事における経験で得てきた技術や、RSP-03チーム含むリーマンサットにおける交流でみんなと一緒に培ってきたチームワークの積み重ねの結果、この衛星の完成という大台に辿り着いたのだと思います。
--RSP-03ならではの強みは何だと思いますか?
吉田:衛星本体から広がるグッズ・イラスト展開がとても強いと思います! 一つのキューブサットのためにこれだけのスケッチ・コンセプトデザイン・パーカーなどのグッズが生まれるなんて珍しいのではないでしょうか笑
RSP-03デザイン系が手がけたグッズの一部。
C&DH系の役割
--RSP-03開発で担当している「C&DH系」とはどんな役割なのでしょうか?
吉田:Command & Data Handling 系(以下”C&DH”)は、人工衛星の「頭脳」に相当する部分を担当する系です。
わかりやすくいうと、衛星の挙動を決める役割です。
RSP-03(ハモるん)は手のひらサイズ、本当に小さい機械なんですけれど、その中に小さい小さいコンピュータが入っていて互いに話し合って、通信しあっているみたいなことをイメージしてください。その通信の方法を決めたり、衛星なので地上とも会話ができるんですが、その会話の仕方、どういうコマンドでとか、地上でどういうデータが取れるか、手段や実際どう動かすかをプログラムする、というのを行っています。
--具体的には?
吉田:具体的には、C&DHは以下のような機能を持ちます。
・衛星に搭載された機器(電源、温度センサなど)の制御を行う
・衛星が安定して稼働するように、機器の状態をモニターする
・地上から衛星に送られるコマンドを処理し、必要なデータを地上に送り返す
C&DHは、マイコン等の電子部品で組み上がったハードウェアと、そのハードウェア上で動作するソフトウェアで構成されており、チームは主にその2種類を設計・開発しています。
また、C&DHは衛星上の全系と結合する他、地上局とのデータ通信にも深く関わっているため、衛星-地上間コマンドの定義や衛星全体試験の検討&実施など、衛星システム全体に関する作業も行っています。
開発の様子。
技術的な挑戦
--「ここがすごいよ!RSP-03ハモるん C&DH系」というところを教えてください。
吉田:目に見えにくい部分ではありますが、RSP-03搭載の各種ソフトウェア同士で通信方法の共通化を行い、OBC同士が自由にデータを送受信できるようにしたのが一つの特徴になります。RSP-03には合計5個のOBC(C&DH×1、通信×2、姿勢制御×1、ミッション×1)が乗っているのですが、どのOBC同士でもデータ(パケット)のフォーマットを利用するように決めて実装しました。これは地上〜衛星間も同一で、これによってデバッグが過去に比べて簡単になったのと、緊急時に地上から任意のコマンドを送るということが容易になりました。
開発の裏側~衛星ぶっちゃけ話
--開発中に苦労した点や、思い出に残るエピソードはなんですか?
吉田:一番苦労したのは、上で述べたOBC同士の通信自体を成功・安定化させるところにありました。通信フォーマットを決めたはよいものの、その通信という行為をすべて正しく実装するにはどうしても各OBCまたがって自分で実装する必要があり、久しぶりに触るプログラミング言語もありました。最初の数ヶ月はデータのロスが多く、完成するまでには何人ものメンバーと協力して時間を掛ける必要がありました。嫌な顔を見せず検討修正を自分から引き受けてくれたメンバーたちには本当に感謝です…。
--開発に関わる中で、一番心躍ったのはどんな時でしたか?
吉田:劇的な喜びというよりも、毎週の設計・試験作業を繰り返していくうちに少しずつソフトウェアの動作が安定していったのがやはり嬉しさを感じる部分でした。最終的に画像や音楽データのダウンロードが短時間かつ安定に行えているのを見るのは特に気持ちが良かったです。軌道上でも同じくスムーズなデータ通信を見てみたい!
--超小型人工衛星ならではの難しさや工夫した点は何ですか?
吉田:ハードウェア的には、筐体が小さいことで組み立てが大変などの課題があるとおもいますが、ソフトウェア開発の面ではむしろメリットのほうが大きかったように思います。全ての構成部品がデスクに乗るサイズのため、一人でも衛星を起動したり全体の動作確認を行ったりすることでができるし、試験体(EM)であれば搭載部品の電気的な動作確認も自分で行うことできる(マルチメーターで電圧を想定するなど)など、大型の電子機器に比べて扱いやすい面が多いのではないかと思います。
開発を振り返って
--開発を終えて、今どんな気持ちですか?
吉田:一旦ほっとしている気持ちです。「一旦」というのは、衛星の運用開始後には、今まで見たことのない問題が起きるかもしれないからですが、それもチーム力でカバーするのがRSP-03というチームです。
--惜しかったな、という点はありますか?
吉田:リーマンサットは趣味の団体だからやっぱり平日はあまり活動できなくて、色々なところをギリギリで進めているんですよね。このギリギリ、自分ができるかできないか微妙な線を攻めることで成長するのが楽しい、挑戦し続けたいという気持ちはすごくあるんですが、失敗もたくさんあって。仕事なら怒られてるよなーみたいなこととか(笑)部品壊しちゃったり…その辺は惜しいというか、自分の反省ですね。でもそういう時もチームの力で、皆でそれぞれのやり方で拾ってくれるので。救われた部分はあります。
--トラブルのたびに皆で相談して一個ずつ解決してきましたもんね。思い出もいっぱい。
吉田:思い出、ほんと色々ありますね。
フライトモデル(実際に宇宙へ放出されるモデル(Flight Model:FM))開発中の様子。
RSP-03(ハモるん)宇宙空間への放出への想い
--RSP-03(ハモるん)が宇宙に行った時、一番初めに、あなたの開発した個所は何を行いますか?
吉田:C&DHの一番最初の仕事は、搭載アンテナを展開するという超重要な処理になります。RSP-03はISSからの放出直後、スイッチが作動して電源がONになります。その後C&DHは起動時間を測定し始め、あらかじめ設定された時間が経過したことを検知した後、筐体内部に収められた4本の通信用アンテナを展開します。この展開が成功しないとRSP-03は電波を十分な強度で出力することができず、地上局はRSP-03と通信することができません。RSP-03の放出後にチームが最も緊張するのは、この展開が成功してRSP-03からの電波を受信するまでの数十分なのです…!
--吉田さんから見て、RSP-03(ハモるん)の推しポイントは?
色々あげるとキリがないんですが、やっぱり一番は自立して動く姿。
これを宇宙で見られると期待しているのですが。プロジェクト始まってから約3年、全国から何十人もの人が参加して、力をあわせて作ってきたものがやっと完成して。ちょっとたまらないところがありますね。もちろん宇宙に行って動くまでが大事なんですけれど、まずは皆の力で安心して送り出せる姿になりました。
--お父さんみたいな気持ちですね。
吉田:そうです(笑)こちらは声をかけるしかできませんが。
未来とメッセージ
--リーマンサットで活動する理由は?
吉田:この3年間は、RSP-03プロジェクトをなんとか成功させるためにとにかく動いてきたと思います。
私は2021年打ち上げのRSP-01開発にも参加しており、そのときは技術経験浅め、衛星開発は経験ゼロという状態からスタートしました。開発期間の2年の中でなんとか技術力を上げつつチームワークも学ぶという、まさにOJTのような過程を経てなんとか開発完了にたどり着いたのですが、自分のやりたい分野でどっぷり時間をかけてと頑張るという機会は今振り返ってもとても貴重なものになりました。RSP-03プロジェクトを成功させることは、その機会をくれたリーマンサットと応援してくれた皆さんに恩返しをする意味もあるのだと思います。
RSP-03プロジェクトが成功することが、今後リーマンサットやリーマンサット外の新しい宇宙プロジェクトが始まったり継続したりする1プッシュになれば良いなと思っています。
--超小型人工衛星RSP-03を通じて、ハモるんを応援してくれている皆さんに感じて欲しいことはなんですか?
日本の宇宙開発、草の根宇宙開発に貢献していると少しでも感じていただけると嬉しいです…!
--最後に読者へメッセージを!
あと1日で、ハモるんは地球低軌道上で産声を上げ、地上にビーコンや音楽を届け始めるはずです。楽しみにお待ちください!
--吉田さん、ありがとうございました!次回の『趣味で人工衛星』インタビューはPM回。お楽しみに!
他の系のインタビューはこちらをどうぞ。
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【ラストインタビュー】趣味で人工衛星!ハモるんミッション系の挑戦――星座を音に変えるAI作曲の舞台裏
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【ラストインタビュー】趣味で人工衛星!ハモるん地上局系が語る「宇宙と地球をつなぐ技術」
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C&DH系についてもっと詳しく知りたい方は、こちらをどうぞ!
#12 衛星の頭脳の中核…C&DH系の開発 ~超小型人工衛星RSP-03開発ウラ話14連発【RSP-03技術講演会】
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宇宙開発したい皆さん、一緒に何か企てませんか?リーマンサットが気になったかたはこちらまでどうぞ。
https://www.rymansat.com/join
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【この記事を書いたメンバー】
広報部 &RSP-03 梨太郎
肝臓エリート
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【この記事を書いたメンバー】
広報部 オウンドメディア課 &RSP-03外部公開系 トモエ モエ
リーマンサットCBO(C:最高 B:ビール O:責任者)
好物はビールと焼肉